Home > 家族 > 理不尽(10)。

理不尽(10)。

  • May 30th, 2011 (Mon) 19:07
  • 家族

200903GIFU123.jpg

JRの駅から海側へと、市内を縦に貫く20kmほどの幹線道路があります。その中程から少し東の山側に逸れ、車一台がやっと通る坂道の突き当たりに、私の実家があります。「幹線道路」だったのは、昭和の終わり頃まででしょうか。未だにパス路線ではあるのですが、もともと湾曲した旧道を直線で繋ぐように、片側二車線の新道が出来て以来、多くの車はそちらを流れるようになりました。

その夜、私は独りで実家に戻りました。戸数10軒に満たない集落は、どの家も灯が消えています。申し訳程度でも街灯があることを、ありがたく思わずにいられません。 夜遅くに実家に戻ったことは、これまでも何度かありましたが、誰もいない夜中に戻ったことなど、あるいは初めてだったかもしれません。

その静けさに慄然としました。そして、とうとう「孫」では無くなったことを、今更ながらに思い知らされました。祖母が長命だったぶん、次の代替わりもあっという間にやって来るに違いない…..とさえ思いました。守られていたつもりが、いよいよ逃げよう無く、守る側に立たねばならぬ…..。

仕事を口実に今まで棚上げしていた家のことが、一息に押し寄せた心地でした。一般に四十代とは、もっともっと自信に満ち溢れたものだろうと思っていましたが、いざフタを開けて我が身を振り返ってみると、何事につけ、自信の持てないことばかりでした。ひとつも台詞を憶えていないのに、舞台袖に追い立てられ、すぐに出番が巡ってくる…..その恐怖に、今にも泣き出しそうになっている…..昔、そんな切迫した夢を観たことが幾度もありますが、およそそのような心境でした。

車から降りて母屋を眺めました。次に祖母がこの家に戻るときは、お骨になっているのだな、と思いました。数年前、ホームに入った当初には、会うたびに戻りたい、戻りたいと泣いていた祖母でした。置いてきた畑のことが気がかりで仕方が無い様子でした。なんとも可哀想なことをしたものです。今頃、怒っているだろうな…..とも思いました。

鍵を開け、とりあえず台所に落ち着きました。そして勝手口を開け、猫の名を呼んでみました。案の定、外回りに出かけているようで、戻ってくる気配はありません。おおかた、別の家でエサをもらっているに違いありません。とは言え、私が寝ているうちにお腹を空かせて戻って来てもいけませんから、他の猫に盗られることを承知の上で、いつも通りの分量のエサをトレイに置いておきました。

その後、二階に上がり、布団を敷いて眠ることにしました。明日が通夜、明後日が葬儀です。ここで体調を崩すわけにも行きません。とにかく、眠れるときに眠っておこうと思いました。そしてほんの一瞬、祖母が夢枕に立ってくれることを願いました。

翌朝、猫のエサは無くなっていました。水を取り替え、1日分のエサを置いておきました。両親から頼まれた喪服や数珠や靴などを、手帳のメモを頼りに探し出し、車に積み込みました。葬祭場に戻ったのが何時頃だったか忘れましたが、冴えるように綺麗に晴れた、まぶしいくらいの冬晴れの朝でした。

訊ねてみると、祖母は両親の夢枕には立ったようでした。そんな信心の無いはずの父でさえ、さすがに昨夜は祖母の夢を観たと言いました。私はグッスリと眠っていて、そもそも夢を見たのかどうかさえ、記憶にありませんでした。

(つづく)

200903GIFU120.jpg

Comments:0

Comment Form
Remember personal info

Trackbacks:0

Trackback URL for this entry
http://memoranda.egoism.jp/blog/2011/05/%e7%90%86%e4%b8%8d%e5%b0%bd%ef%bc%8810%ef%bc%89%e3%80%82.html/trackback
Listed below are links to weblogs that reference
理不尽(10)。 from memoranda

Home > 家族 > 理不尽(10)。

Spider
Recent Entries
Recent Comments
Archives
Categories
Now Playing
flickr Photostream
DSCF7851DSCF7849DSCF7848DSCF7846DSCF7844DSCF7840DSCF7839DSCF7853DSCF7833
TagClouds
Search
Feeds
Meta
Counter

Return to page top