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理不尽(4)。

  • May 17th, 2011 (Tue) 23:04
  • 家族

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再び病院に戻ったのは、およそ午前10時をまわった頃ではなかったかと思います。祖母の状況に変化は無さそうでした。わずかばかりのサンドイッチと缶珈琲で朝食を済ませ、はて、この先いったいどうなるのか…..と思いました。両親から間接的に聞いたお医者様の診立てによると、もう長くはないだろうということでした。しかし、このような状態で数ヶ月、あるいは年単位で長らえた方もいる、ということも聞かされていました。

生命維持装置を付けられ、既に自発呼吸は出来ない状態でした。スイッチを切れば死んでしまうのだと、父がポツリとつぶやきました。そしてその先を口にすることはありませんでした。おそらく、父は何としても避けたかったのだと思います。この装置を外すか否かの決断を、お医者様から迫られることを…..。

しばらくは無言のまま、両親と私の3人は、何をするでもなく、病室の丸椅子に腰を降ろしていました。ボンヤリと座っていました。しかし、私の胸の裡には沢山の言葉にならぬ言葉が蠢いていました。おそらく両親も同じだったろうと思います。

そうして午前11時40分を過ぎた頃、心拍数を示す数値が急激に…..本当に急激に下がりはじめました。モニターから目を離さずにいた母は「あぁ、あぁ….」と呻きました。緊急事態を告げるアラームが鳴りはじめました。お医者様と看護婦さんが入ってきました。聴診器を当て、脈を取り、そして私たちに向かって、「傍で呼びかけてあげて下さい」と言って下さったのでした。

最初に耳元で呼びかけたのは私でした。反対側で祖母の手をとり、さすっていたのは母でした。父は祖母の足元で直立したまま、近付こうとしません。私は父のために体を入れ換え、場所を譲りました。父は私に促されて、ようやく祖母の手を取りました。父は祖母に語りかけることはありませんでしたが、じっとその顔を見つめていました。私はそんな父の背をさすりながら、情けないことに、涙を止めることができませんでした。

「これはいま、どういう状態ですか?」と、父は片方の手でモニターの数値を指さして、いつもと変わらぬ冷静な口調でお医者様に訊ねました。お医者様は「ほとんど拍動していません。痙攣に近い状態です」と答えて下さいました。不思議なことに、その口調は微塵も事務的に響くものではなく、かといって、殊更に感傷の粉飾を施したものでもありませんでした。

父は「あぁ、そうですか」と、幾度か確かめるように頷いて、再び祖母の方に向き直りました。その口調には、事実を教えられたことへの謝意が篭っていたように思えました。

そうして、祖母の命の灯火が消えたのは、私の時計で午前11時49分のことでした。本当に、本当に穏やかな最期でした。

(つづく)

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