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理不尽(3)。

  • May 16th, 2011 (Mon) 23:33
  • 家族

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記憶の海で地引網を引くように、気がかりな幾つかのことを、父は丹念に手繰り寄せ、自分が何を尋ねているのかを、他ならぬ自分自身に言い聞かせるかの如くに、ゆっくりと質問をして行きました。私は手帳を取り出して、父の質問に答える若い女性社員の一言一言を書き留めて行きました。

できれば父に代わって私が全てを取り仕切るべきでしたが、当人は私に対してそこまでの依頼心は持ち合わせていませんでした。そこを無理に押し退けて私がしゃしゃり出ることは、かえって余計な負荷をかけることになってしまいます。気がかりで仕方ありませんでしたが、私にできるのは黒子に徹することでした。

会員として既に二口分の契約を済ませているので、最小限の手出しで済むだろうこと、万一の時には24時間対応で受け付けてもらえること、密葬で行うこと、参列者は概ね17名になりそうなこと、香典は辞退する、葬祭場の表には看板等一切出さないこと、職場関係と近所への連絡は事前に入れておいたほうが無難だろうこと、そのうえで、家族葬の意向を明確に伝え、場所・時刻等は知らせずにおけば良いだろうこと、友引の通夜は可能であること…..。

そんな具合に、30分ほどが過ぎたでしょうか。まだまだ気がかりなことがありそうだが、いったい何を押さえておかねばならないか、その場になってみないと判らないが…..と父は言いました。しかし、わずかながらも見通しが持てたらしく、少し安心した様子でした。何かあったらよろしくお願いしますと言い残し、私たちは葬祭場を後にしました。丁重に見送られ、再び病院に戻りました。

その車中、私は祖父の葬儀のことを思い出していました。23年前の夏、私は大学2年生でした。当時、我々の集落では、未だ自宅葬が一般的でした。近隣からお手伝いの人がワンサカとやってきました。葬儀を口実に家を乗っ取られたかのような心地になりました。落ち着かない慌ただしい空気の中、祖父との別れを惜しむことも、塞ぎこんで感傷的になることもできず、あっという間に過ぎた覚えがあります。なにより腹立たしかったのは、広縁にドッカリと腰をおろし、ロクに手伝いをするでもなく、頼みもしない祖父の評を大声でまくし立てる、見知らぬ老人のことでした。

父はひとりっ子ですから、当然、喪主を務めています。その時に比べれば、今回は家族葬ですし、しかも会場を借りて行うわけですから、ずいぶんと負担も軽くなるはずだ…..なにより父も既に70代の半ばにさしかかっていますから、除ける負荷はできるだけ除いてあげたいと思いました。如何に親子の愛情が深くとも、父が祖母に連れて行かれることだけは、是が非でも避けねばならぬと思っていました。

おかげさまで、父は今も健在です。ただ、この時の私は、とにもかくにもこのことだけが気がかりだったのでした。

(つづく)

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