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続 続 服の値段。

  • January 7th, 2011 (Fri) 19:36
  • 思惟

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そんな私が彼に連れられて入ったのは、シックでシンプルなデザインを旨とする有名メーカーのブランドでした(つまり「メーカー」と「ブランド」の語義さえ明確に区別出来ないほど、私はこの業界に疎いのです)。おそらく独りで歩いていれば、気が付くこともなく素通りしたにちがいありません。彼と一緒だから入れたのです。当然の如く、入店後の5分間は、ピタリと彼のコバンザメ状態でした。

十年来の付き合いがあるという店長は、私たちと同世代でした。ビシッとスーツを着こなしていても、そこはやはりビジネスマンのそれではなく、ファッション業界の色気と矜恃とを綯い交ぜにした雰囲気がありました。客商売でありながら、彼には微塵も媚びたところがありません。だからと言って、その受け応えはちっとも尊大ではありません。

近寄りもせず、離れもせず、その間合いは微動だにせず一定を保っていました。物理的なことではなく、心理的な距離感のことです。おそらく、これは彼の生来のものではありません。この仕事が否応なく彼に刻み込んだ距離感です。そうして私は、このお仕事に携わっている方々の中でも、いわばプロ中のプロとも言える方に出会ったのだという気がしたのです。

翻って、意気地のないコバンザメであるところの私は、出来るだけ同僚の買い物の邪魔にならぬよう、徐々に彼から離れて回遊をはじめました。入店直後にコバンザメであることを宣言していますから、他の店員さんも私に向かって何かを薦めようとする過ちは犯しません。よしんば接近遭遇することがあっても、決して目線を合わせようとはしませんでした。そこに多少の哀れみが漂っていたと思うのは、私の勘繰り過ぎでしょうか…..。いずれにせよ、「近寄らないで♪」というオーラを全開で撒き散らしていたことは言うまでもありません。

そうして、綺麗にディスプレイされた商品の、巧妙に仕舞い込まれた値札をそっと引っ張り出しては、独りで「値段当てクイズ」を始めていました。そのたび「ゴメンなさい!! もうしません!!」と心の中で叫びたくなるくらい、想像した値段と現実の値段とのギャップは、私を幾度も謝らせたのでした。強いて顔文字を使えば、((>_<))とか_| ̄|○))ペコペコペコペコペコペコペコ… んな状態でした。

いやぁ…..驚いた。これは降参。するとどういうわけでしょう、先程までなんとも思っていなかった私自身の衣服が、急にみすぼらしく思えはじめたのでした。それと同じくらい、街行く人々(舞台は六本木)が、誰も彼も高級な衣裳を身に纏っているように思えたのでした。

もちろん、ボロは着てても心は錦と言えば良いのかもしれません。しかし、クリスマスシーズンを控え、イルミネーションに輝く夜の六本木界隈は、そんな強弁を挫くのに充分すぎるくらい高級だったのでした。そうして幾度となく「馬子にこそ衣裳」というつぶやきが、頭の中をこだまするのでした。

釈然としませんが、そろそろ、そんなことにも気を配らねばならない年齢になっていたのかもしれません。

(了)

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