Home > 家族 > 続 続 胸に迫る。

続 続 胸に迫る。

  • August 19th, 2010 (Thu) 19:07
  • 家族

2009NGY091.jpg

およそ1時間ほどの時間が過ぎたでしょうか、「さぁ、そろそろ…..」という父の合図で、みな引き上げることにしました。以前はそのことを切り出すことにさえ、相当の神経を遣っていたものです。別れ際には、祖母も私たちも、お互いにいつも辛い思いをしていたからです。しかしこのごろは祖母も機嫌良く別れてくれます。決して泣いたり駄々をこねたりすることはありません。

もちろん、前後の事情を弁えてのことではありません。進行した認知症が(あるいは投薬の所為なのかもしれませんが)祖母にそのような受け応えをさせているのでした。私たち家族は、このまま後戻りできない時間を歩き続けるしかなく、その途次でお互いが辛い思いを抱えたままでいるよりは、進みすぎた認知症によって心穏やかに暮らす祖母を見ていられることのほうが、はるかに幸せなのでした。もちろん、心の底から喜んでいるわけではありません。

以前は車椅子に乗った祖母が、介護士の方に押されながらホームの玄関先まで見送ってくれていました。しかしここ最近…..つまり、あまりに辛がる様子を繰り返していた3年前あたりから、玄関先での見送りを止め、部屋から玄関までの間にある食堂で別れる習慣になっていました。そこでは入居している方々がテレビを観ていたり、折紙を折っていたり、うたた寝をしたりしています。

車椅子に乗った祖母を食堂のテーブルまで押して行き、いつも好んで付いている位置に納めました。周りにいた2〜3人の入居者の方々に小さく会釈しながら別れようとしたとき、祖母の斜向かいに座っていた方が、私の息子を認め、手招きをしたのでした。こういうことに畏れも屈託もない彼は、私が声をかけるまもなく、誘われるままスタスタとその方の傍らに近付いて行ったのでした。

同じように車椅子に座っていたその方は、祖母に比べるとずいぶんと華奢に見える方でした。そして私の息子の掌を、そのか細い両手にとり、じっと彼を見上げているのでした。そしてみるみるうちにその方の眼に涙があふれ、祈るともすがるとも言えるふうに、その顔を彼の掌に埋めたのでした。

その方の傍らに居た介護士の方が、驚く彼に向かって語って聞かせてくれました。その方は、数日前に入居したばかりであること、以前、曾孫と一緒に暮らしていて、その男の子のことをずいぶんと可愛がっていたこと、君を観て、ほぼ同い年の曾孫のことを思い出し、声をかけずにはいられなかったのだろうこと…..。

その様子を見ていた私たちは、どうにも胸に迫って仕方がありませんでした。赤の他人の子どもにも関わらず、その掌をとり、そこに顔を埋め、声を震わせて嗚咽させるほどまでに、その方を追い込んでしまっているものが何なのか…..そして、他ならぬ私たちも、祖母に同じ仕打ちをし続けており、いずれは私も同じことを……。

うわずりそうな声を抑えながら、私が彼に言えたことは、「しっかり握手を返してあげなさい」という一言でした。彼は困ったような目をしていましたが、それでも私の意を汲んだのか、小声で「だいじょうぶ、だいじょうぶだよ。」と言いながら、握手を返していました。私の母もたまらなくなったと見えて、その方の傍らに近寄り、その方の華奢な肩をさすりながら、何事かを囁いたのでした。

「仕事」や「教育」や「病気」や「老い」といった様々なことに、専門のスタッフと専用の空間をしつらえてそこを過ごさせて行くことは、いったいに私たちが本当の意味で望んでいた暮らし方だったのでしょうか…..。なんだか、とてもたまらなくなったのでした。

2009NGY090.jpg

Comments:2

hiro 10-08-20 (Fri) 15:56

不躾ながら今回はこれまでに増して読み応えあり、mbさんでなければ無理とヒシヒシと。文章で表現できるって素晴らしいことですね!最後部には触れない事にして…特にご愛息の所業には…。

>正常な頭脳こそが祖母を苦しめ、両親を苦しめていた

一昨年逝った祖母と母との関係を思い出しました。祖母も母も似た状況だったのかも。我が家では施設に結局入れる事ができず、彼方此方に散らばった親戚方を盥回しになって最後は栃木で施設に入り逝きました。どうしてそこで入れたのかと理由は同じだったのかもしれませんね。そしてその世代が皆逝ってしまい、次は僕が第2の退職が迫った両親をこちらへ呼べないかと画策し始める年頃となりました。

P.S 幸か不幸か3Gがぶっ壊れて今日iPhone4入手予定です。twitterかどこかで自慢させて頂きます。“もうそろそろ”自慢に聞こえれば嬉しいのですが…(笑

mb 10-08-20 (Fri) 18:21

hiroさん、こんばんは。いつもコメント、ありがとうございます。
そうでしたか、同じような状況を経験しておられたのですね。またこの先、否応なく両親の病気・介護という問題に向き合うことになるのでしょうね。
私の場合、尋常ならざるカメラマニアであるところの我が父は一人っ子なものですから、すべての負担が両親にのしかかる形になっていました。ですから、ここ最近、強く思うのです。うちの両親、ホントによく頑張ったのだなぁ…..と。頼れる身内の無い状況では、他に比較の対象もないわけで、ある意味、「せざるを得ない」と腹を括れていたのかもしれませんが、それにしても…..と。
なんだか先のことを考えると、悲しいことばかり想像してしまっていけません。明るい話題がないものか……とiPhone4が気になったりします(笑)。

Comment Form
Remember personal info

Trackbacks:0

Trackback URL for this entry
http://memoranda.egoism.jp/blog/2010/08/%e7%b6%9a-%e7%b6%9a-%e8%83%b8%e3%81%ab%e8%bf%ab%e3%82%8b%e3%80%82.html/trackback
Listed below are links to weblogs that reference
続 続 胸に迫る。 from memoranda

Home > 家族 > 続 続 胸に迫る。

Spider
Recent Entries
Recent Comments
Archives
Categories
Now Playing
flickr Photostream
DSCF7851DSCF7849DSCF7848DSCF7846DSCF7844DSCF7840DSCF7839DSCF7853DSCF7833
TagClouds
Search
Feeds
Meta
Counter

Return to page top