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鼻腔の記憶。

  • June 29th, 2010 (Tue) 23:54
  • 思惟

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花に疎い私でも、芳しい香りを漂わせてくれる花ならば、その姿と名前を違えることはありません。冬の水仙、春の沈丁花、夏の梔子(クチナシ)、そしてもうすぐ会える鉄砲百合。あまりと言えばポピュラー過ぎる花々ですが、たとえば職場に通う道すがら、唐突に鼻腔に触れる芳香に誘われて、ふと辺りを見回すと、傍らの民家の生垣から、丹精した白く小さな花が顔を覗かせていることがあります。

香りの記憶は、さながら醒めてみる夢のように、どこかしら淡く繊細で儚いものです。しかし、道端でほんの一瞬だけ鼻腔をかすめる芳香が、思いがけず濃厚な記憶を携えて来ることもあります。ただ、その濃厚な記憶は決して鮮明ではありません。まるで分厚いゼラチンの膜に覆われたかのように、むしろ香りが鮮明であればあるほど、記憶の映像はますます遠のいてしまうのです。

まるで手応えなく、触れたと思った刹那に消えてしまう記憶の群れ…..。思い出さなければならないのに、忘れてはいけないのに、失くしたことへの後悔と、取り戻そうとする焦りとが綯い交ぜになってしまいます。かつてその芳香に触れた時の、時間と場所と人の記憶…..。

雨上がりの涼やかな風が、心地良くこの家を吹き抜けています。レースのカーテンがゆらゆらとそよいでいます。いつもなら閉口する梅雨の夜も、その湿度の高さを忘れさせてくれるくらい、柔らかな風の音と蛙の嬌声に満たされています。

そうして私の鼻腔は、ここに無い花の香りを、さっきから一生懸命に思い出そうとしているのでした。

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