- February 4th, 2010 (Thu) 22:41
- 昔話

就職して3年目のことでした。新しく始めるプロジェクトのために、企画書を仕上げなければなりませんでした。必要な事項を含めて行くと、A4×20頁ほどの分量になりました。掲載できる図表の数が限られていたので、文字だらけの何とも愛想の無い企画書でした。ただヴィジュアルで誤魔化せないぶん、書き言葉で全てを説得しなければなりません。ですから、全体の構成と文体には、ずいぶんと気を遣った憶えがあります。
さて、その企画書。採否を決めるのは職場の外に居る、顔も知らないお役所の面々でした。いわゆる「コンペ」です。いわば私にとって「デビュー戦」でした。右も左も判らず、ただ上司に言われるままに作ったのです。
「こんなものが通用するのだろうか…..」と思いました。その自信の無さとは裏腹に、「これが認められないなら、それはよほど読み手が悪かったに違いない」などと、不遜なことも思ったりしました。
「絶対通る!!」という自信も無い代わりに、「落ちるかな….」という確信も無い状態…..。こういう心理状態の時には、不思議と良い結果が転がり込んでくる、これがいまのところの私の経験知なのでした。
それはともかく。
この企画書を外に出す以前、当然ながら、内部で練り上げるための会議を幾度となく開きました。そのたび、私は頼みもしない俎板の上の鯉になるわけですが、浴びせられるご意見を素直に受け止めたり、あるいはニッコリ笑って受け止めたフリをしてみたり、「それは違いますよね」と言う代わりに深く頷いてみせたり、なかなか忙しいものでした。
そんななか、文句ひとつ言わず、じっと議事を記録して下さる事務の方がいらっしゃいました。2年後に定年を控え、既にお孫さんもある、私との年齢差で言えば、父親以上に開きのある方でした。普段の温厚な様子からは想像もできぬくらい、酔うと別人のように陽気で乱暴な言葉づかいになる方でした。
幾度かの会議を経て、いよいよ次回が最後の検討会…..というとき、その方が私の作った企画書を、ひと晩、預けてくれないかと言うのです。もとより自信があるわけでもなかった私は、経験豊富なその方に目を通して頂けることを、むしろ喜んだくらいです。
そして翌日、呼び出された私が見たものは、ハサミでズタズタに切り刻まれ、前後を入れ替えられたうえに、大判の模造紙にペタペタと貼り付けられた私の企画書でした。ところどころに「つなぎ」の言葉が、その方の手書きで加えられていました。「申し訳ないとは思ったが……」と弁解しつつも、その顔には「こうでしか有り得ない」という自信が満ちていました。
事実、ガタガタに切り刻まれ、糊でガビガビに貼りつけられた模造紙を上から順に読み下してみると、なんともスッキリ読めるのでした。まさしく職人技でした。「なるほど、これが「年季」と言うものか…..」と、若輩だった私は素直に感動したのでした。今でもその時のハサミと糊と赤ペンが目に浮かびます。
その方が、いまどこでどうしていらっしゃるのか、不義理な私はなにひとつ知りません。ふと懐かしく、思い出してしまったのでした。

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