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臨場感(6)。

  • February 18th, 2010 (Thu) 18:01
  • 思惟

2009TMNUR054.jpg

オウム真理教の事件があったとき、押し寄せる報道陣に対して、ハンディなビデオカメラを構えて応戦する信者たちがいました。それはとてつもなく異様な光景でした。私を含め、多くの方々が同じような薄気味悪さを感じたと思います。しかしよくよく考えてみると、その信者を映し出している報道陣のほうこそが、兵器のように巨大なビデオカメラを肩に担ぎ、彼らと対峙していたはずなのでした。

こんなこともありました。オウムの事件よりも前のことだったと思います。とある事件で起訴された元判事が、路上で執拗に追いかけてくる報道陣に対して、突然、手に持っていた傘を振りかざし、追い回し始めたのです。ビデオカメラを抱えたままのカメラマンは「写ってるんだよ!! 写ってるんだよ!!」と、焦りと嘲りとが入り混じった罵声で応酬しながら、その元判事の暴挙をしっかりと記録していたのでした。

ほかにも、こんなことがありました。航空機か鉄道の事故でした。その会社だったのか、それとも旅行会社だったのかは憶えていませんが、いずれにしても記者会見の席上で、あまりに居丈高な記者の質問に視聴者からの抗議が殺到し、当該局の看板キャスターが番組の中で詫びたことがありました。弁明によると、事故に対する視聴者の「怒り」を、記者なりの「正義感」に翻訳した結果だということでした。

これらの「事件」は、それまでさほど考えたこともなかったテレビ番組の「撮り手」や「聞き手」の存在を、私に教えてくれたのでした。

就職して出張に出かける機会が増えてくると、都心の街角でレポーターの姿を見かけることがあります。「おのぼりさん」の私としては、テレビに出ている人を間近で観られることの幸運に、いちいち興奮したものでした。しかし、それまで大声のタメ口で話していたレポーターが、カメラが回ると同時に、突如として神妙な表情を作り、丁寧な言葉を使い始めるのを見て唖然としたこともあります。

なにより、カメラを担ぎ、マイクや照明を提げ、クリップボードを携えて時間を記録しているあの一団の、歩道を塞いでいるにもかかわらず、邪魔なのは通行人だと言わんばかりの妙に特権的で使命感に満ち溢れた表情は、幾度出くわしても馴染めないものだなぁ…..という思いがあります。

誰の付託を得たのか判りませんが、「国民の視線」という強大な権力を重ね着したメディアは、「撮り手」や「聞き手」の「生臭さ」を見事なくらいに脱臭して被写体と向き合っています。そのことがかえって被写体の苛立ちを増幅させます。その苛立ちが少しでも被写体の顔に顕れると、やおら「品格」や「モラル」を振りかざして、さながら後出しジャンケンのように矯正しにかかります。

「写ってるんだよ!!」と罵声を浴びせたあのカメラマンは、本人に対して直接に警句を発したぶん、まだ親切心に溢れていたのかもしれません。

そんなことをとつおいつ考えていると、「編集」というプロセスを経ない「ダダ漏れ」のTwitter+USTREAMというツールは、むしろ「撮り手」や「聞き手」の「品格」をあからさまにしてしまう……もしかすると、その暴露趣味に誰もが喝采しているのかもしれません。これからは誰もが額にiSightを巻き付けて、「撮り手」や「聞き手」の表情をダダ漏れさせながら受け答えすれば、これ以上の「臨場感」は無かろうに…..と思ったりするのでした(次回の党首討論で採用してくれないかなぁ…..)。

(つづく)

2009TMNUR053.jpg

Comments:3

hiro 10-02-18 (Thu) 19:52

>かえって被写体の苛立ちを増幅させます。その苛立ちが少しでも被写体の顔に顕れると、やおら「品格」や「モラル」を振りかざして、さながら後出しジャンケンのように矯正しにかかります。

全くその通り…。僕が思い描いたのは握手とサインに穏やかに応じてくれた、あの力士の姿でした。掘り返せば人には幾つもあることですよね…。

散歩道 10-02-22 (Mon) 10:30

■marmotbabyさん。
こんにちは。
怖いですね。
前後の説明、脈絡を一切カットして、恰もこれが真実だと信じ込ませる報道、そして信じてしまう視聴者や聴取者。

mb 10-02-22 (Mon) 22:36

>hiroさん、散歩道さん
返信が遅くなってすみませんでした。立て込んでいた仕事が、すこしだけひと段落、とは言えまた今週は…..と言ったところです(苦笑)。
さて、誰しも気が付いていると思うのです。報道の内容があまりに偏りすぎていると言うことを。そして、違いが有るとすればせいぜい司会者の顔くらいらしいということを。そして、そんな具合にメディア批判や政治家批判や官僚批判を繰り返しているだけではダメで、要は私たちひとりひとりの民度が問われているのだと言うことを……。

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