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現物至上主義(5)。

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はじめてiTunesを使ったとき、まったくと言って良いほど、そこに感動はありませんでした。遅かれ早かれ、パソコンで手持ちのCDが聴けるようになるだろう…..誰もが予想し、期待していたことが、現実になっただけのことでした。当時の私は、ミニコンポをすこし離れた場所に置いていました。ですからiTunesの利点とは、多少の音質を犠牲にしても、机を離れず仕事をしながら音楽を聴けるということくらいだったのです。

当時はHDDの容量も、それほど大きくありませんでしたから、入れるアルバムは厳選せざるを得ませんでした。パソコンに繋いでいたスピーカーも貧弱なものでした。iTunesで再生していると、それなりにマシンに負荷をかけてしまうので、本業が複雑な処理を必要とするとき、iTunesには静かに退散願うしかありませんでした。

他にも、当時の不満を挙げればキリがありません。ライブアルバムなど、ひと続きで聴きたい2曲の間に隙間を入れ、ブチプチと途切らせる仕様でした。それだけならまだしも、曲中に無音部があると、無理矢理に「別の曲」に分けてしまい、歌手が「あ〜!!」とシャウトする部分だけを独立した「曲」として扱ったりしたのでした。何より許せなかったのが、過日も書いた「コンピレーション」によるアルバムの解体と、シャッフル機能による、繋がりをまるで無視した再生の仕方でした。

アルゲリッチの奏でるラヴェルのピアノコンチェルト第2楽章にウットリしていると、いつの間にかピンクフロイドが「”One of These Days”(吹けよ風、呼べよ嵐)」(←誰だ?こんな邦題を付けたのは?) を演奏しはじめ、慌ててスキップするとYMOが”Computer Game”をピコピコ言わす…..。もちろん、アルゲリッチもピンクフロイドもYMOも大好きですが、こんな繋がりかたは大嫌いです。

ですから、出たばかりのiTunesは、仕方無く音質を下げ、チョイ聴きするための道具に過ぎなかったのです。ましてや、そのストアの貧弱ぶりは目に余るものがあり、日本の著作権の状況を考えれば、到底、このさき使い物になるとは思えなかったのです。それがいまや「幻」と言われた早川美和さんの”Blue Gray”まで、手に入れられるほどの充実ぶりです。

データとして存在しさえしていれば、物理的な媒体はおろか、そのデータさえ「私有」する必要は無くなってしまう…..。「過去に在った何か」を血眼になって求める人がいて、たまたまその情報や媒体を持っている人が、私心無くその「私欲」に応え…..そんな往還の累乗が「オンライン上のデータセンター」という、これまでとは別種の「公共空間」を生み出して…..。

「「私」の利便に適うものは、別の誰かの利便にも適うはず」という性善説のなかで、これまでの「共有」とは幾分意味のずれた「共有(シェア)」という発想が生まれているような気がします。その善し悪しは私には判断できません。シャワーのように一方的なブロードキャストでもなく、かと言って、孤立して閉じた状態の「私有」でもありません。相互にまったく交渉のない者たちが、それぞれの自発的な嗜好をオンラインに蓄積し、もはや「絶版」という言葉でさえ「死語」の袋小路に追い込むほどの「公の空間」を生みだしつつあるように思えるのです。

(つづく)

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