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濡れた風。

  • June 29th, 2009 (Mon) 22:38
  • 昔話

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雨が降り続いています。粘り着くような湿度に閉口しています。しかし、大気の汚れを洗い流すような降り方を眺めていると、なんだかこちらの心持ちまで清々しくなります。まるで天に蓋をするように、厚い雲が低く垂れ込めています。ほんのいっとき、ふと雨がやむことがあります。しっとりと濡れた風が涼やかに吹き抜けます。その風に、青々とした稲がそよぎます。

もしかすると、1年でいちばん好きな季節かも知れません。梅雨が好きなのではなく、そのさなかにホンのいっとき現れるこの瞬間が好きなのです。

夜、窓を開け放ってゴロリと仰臥していると、降り出した雨音なのか、それとも風にそよぐ樹々の葉群の音なのか、にわかに区別が付かないことがあります。その音を子守歌に眠る夜は格別です。まるで詩の中を泳いでいる心地がします。

しかし、「寝冷えをしないように」とか、「もしかすると雨かも知れぬ。ならば窓を閉めておかねば、吹き込んで酷いことになる」といった思いが少しでも頭をかすめた途端、あっという間に俗世間に引き戻されて、せっかくの風雅な趣も台無しになってしまいます(苦笑)。

昔…..既に20年も前の学生時代、授業にも出ず、日がな一日、ひたすら下宿でゴロゴロしていた時期がありました。粗末なアパートの2階の角部屋、六畳一間の子宮でした。眼の前には田んぼがあって、四季の移ろいをイヤでも私に教えてくれていました。まんじりともせず明かした梅雨の早朝、こんな具合に青い稲が風にそよぎ、遙か南に見える山の稜線が、鈍色の空の中にクッキリと浮かんでいるのでした。

そうして、涼やかな風を感じながら、ようやくのことでウトウトとし、そのままお昼過ぎまで眠りに就くのです。お金は無く、恋人も無く、ましてや将来の希望などカケラも無かった時期ですが、そんな詩のような眠りを眠れたことは、なにものにも代え難く、贅沢なひとときだったと思えます。

できることなら、いますぐにでも飛んで帰りたくなる、過去の素敵な一時点なのです。

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