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年始の客(8)。

  • April 27th, 2009 (Mon) 21:01
  • 思惟

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「子どもをもっと早く持つべきだった」という後悔は、私にとって思いがけない告白を、彼女にさせることになりました。それは昨年の暮れ、彼女のお身内に起きたとても不幸な、そして哀しい出来事でした。愚にもつかない結婚話の思い出を、半ば調子に乗っておもしろ可笑しく話した私は、改めて自分の軽薄を思い知らされることになったのでした。

彼女のお父様の弟…..つまり、彼女にとって叔父に当たる方が、昨年のクリスマスの頃に急逝されたのでした。

現在、彼女は25歳です。あるいはその叔父様の年齢は、彼女と私の年齢差よりも近いのかも知れない…..そう思って訊ねました。案の定、その方は50歳で、私と10歳しか違いませんでした。常日頃、親しくしている同僚も、ちょうど50歳です。その同僚と同い年の方が、急な病で亡くなられたわけです。

無論、その方と私の同僚との間には、何の接点もありません。しかし、私はそんな具合にして、その方の死を受け止めたのでした。

世の中を見渡せば、日常的にいくらでもあることとは言え、私と10歳しか違わない働き盛りの男性が唐突に亡くなったという事実は、それだけで充分に重いものでした。しかし、それ以上に重く心に響いたのは、その方がひとり息子の親であり、しかもその子は私の息子と同い年…..。小学1年生だと言うのです。

………….。

その方は腎臓に病を抱えておられたそうです。元気で働いていらっしゃったということですが、定期的な透析が欠かせない身であったそうです。その日もいつも通り透析を受け、そのまま帰宅するはずでした。しかし、そのさなかに卒中の発作が起き、そのまま帰らぬ人となったと言うことでした。

病院のベッドに横たえられたその方の傍らで、男の子は父親の手を握りしめ、「どんどん冷たくなるよ」とつぶやいたそうです。そこに涙は無く、未だ死を理解できない困惑があったそうです。奥様は一夜にして白髪が目立つようになったそうです。そんなこと、私は小説の中だけのお話かと思っていました。

葬儀の間、男の子は押し黙ったままであったそうです。いつもなら、1人で3人分くらい賑やかなはずの彼が、じっと黙ったまま、ひとときも柩の傍を離れようとはしなかったそうです。

にわかに言葉が出ませんでした。深いため息とともに、私は天を仰ぐことしかできませんでした。気丈な彼女は、そこで涙を見せるようなことはしませんでした。そうして、一言一言を確かめるように語りました。傍らで聴いていた彼は、相変わらず口をつぐんだまま、身じろぎもせずに聞いていました。しかし、その眼の奥は、もはや微笑んではいませんでした。

(つづく)

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