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枠の外の物語(7)。

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勇崎さんの言う「返す写真」とは、物理的な行為のことだけを言ったのではありません。撮った写真を一枚一枚、相手に手渡しすることも「返す」ことに違いありませんが、もっともっと抽象的な意味のようです。その引き合いに出されたのが『せいくらべ』という童謡でした。「柱のきずはおととしの/五月五日のせいくらべ/ちまき食べ食べ兄さんが/計ってくれた背の丈」。

勇崎さんは「柱のきず」が「写真」だと言います。柱の傷を観たとき、その傷をこしらえ、私の成長を喜んでくれた、いまは他所に暮らす兄を想い、そこからいくつもの記憶が蘇る…..。番組では、「記録と記憶の共鳴」という言葉も使われていました。

事実、東川町で開かれた飛彈野さんの写真展では、わずか26点の写真に対して、地元の人がそれを観、いくつもの記憶を呼び覚まされている様子が描かれていました。そしてそれは、その場に集う人々を繋いでいたのでした。

写真のなかに幼い頃の友達を捜すつもりが、思いがけず子どもの自分を発見して驚いている中年の男性。井戸水を汲み上げるポンプとその先に付けられたサラシに触れ、中に砂金やカニが混じっていた思い出を語る老夫婦。なんの変哲もない、床の間をバックにした家族の集合写真、その中に生まれたばかりの自分自身を見た老人。曾祖母の葬儀の様子を写した写真から、背景に写る今は無き母屋の由来を語る人。写真には写っていないのに、その枠の傍らにあった川、そこでヤマメを釣ったこと、それが今は暗渠となり、影も形も無くなったと語る人…..。

番組のナレーションは、こんなキャプションを付けていました。「飛彈野の写真は、町の人々の眠っていた記憶に刺激を与え、「鑑賞する人」を「表現する人」へと変えて行きます」。「表現する人」とは、記憶の語り部となったことを言うのでしょう。

観られることだけでは、写真は写真として完成しないのかも知れません。観られるだけで終わるなら、それは一方通行でせわしなく消費されるだけの写真です。飛彈野さんの写真は、どこまでも観る人の記憶に供せられた写真でした。そして観る人に、歳月を重ねることを求める写真でした。

そこに自分が写っていようがいまいが、あるいは自分が暮らす土地だろうがそうで無かろうが、読み手の記憶に働きかけ、読み手を主役にする写真は尊いと思えました。写真に貴賤を付けるつもりなどまったく無いのですが、やはり「尊い写真」というものがあるようです。しかもその尊さは、撮り手が決められるものでは無さそうです。なぜなら、それは常に「枠の外」にあるのですから…..。

森山さんの写真で好きなものを敢えて2枚に絞るなら、1枚は映画の看板を見上げながら立小便をしている男の子、もう1枚は『遠野物語』に収められた、鈍行列車の座席で眠る男の子の写真です。どちらも、私自身を観ているような気がして仕方が無いのでした。

(了)

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Comments:2

散歩道 09-03-10 (Tue) 22:44

■marmotbabyさん、
こんばんは。
何時にも増して興味深い話でした。
生憎とその番組は見る事が出来ませんでしたが、
本来、写真とはその様なものだったのでしょうね。
「枠の中の歳月」、そんな物が感じられる写真を撮りたいと願うのですが・・。

mb 09-03-11 (Wed) 18:57

散歩道さん、こんばんは。いつもコメント頂き、ありがとうございます。
なにより、こんな駄文を丁寧に読んで下さっていたかと思うと、嬉しくてなりません.本当にありがとうございました。
新日曜美術館は、充分な予告無く、不意に「アンコール放送」と称して再放送することがありますから、番組HPのこまめなチェックが欠かせません(笑)。飛彈野さんの回も、そう遠くない時期に、アンコールがあるものと思います。時折、番組HPを覗いてみてはどうでしょうか?

http://www.nhk.or.jp/nichibi/

写真が暖かい心持ちで読まれるためには、長い歳月を要するのかも知れません。瞬間しか相手に出来ない撮り手には、いかんともしがたいものです。枠の外の物語は、撮り手や写真とは無縁に降り積もるものですから……。そう思ったとき、より良く読まれようとする我欲はしぼみ、撮る喜びだけで撮り続けていられるような気がしてきたのでした。

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