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続 ご褒美。

2008Krsk005

「15分」という時間を違えず、その方は現れました。すぐに気が付けるよう、私は階段を見渡せる場所に座っていました。2年近くも前のことですが、昨年2月、美術館でお見かけしたお顔を、私は忘れるはずがありません。すぐに眼が合って、先方も気が付いたらしく、私の方に歩み寄り、手を差し伸べて握手を求めて下さったのでした。

開口一番、「いちばんお会いしたかった。嬉しいです」と、仰って下さいました。冷静に考えれば、なんとも不思議な切り出し方ですが、奇を衒ったふうもなければ、必要以上に大袈裟な歓待と言うわけでもなく、どちらかと言えば、照れくさそうに、はにかみながら、しかも目線が合わぬよう、笑顔でそう仰ったのでした。

私もよほど緊張していました。その切り出し方に怪訝な思いを抱いたものの、正面切って「何故ですか?」と訊ね返す余裕などありません。こちらとしては、むしろ私の都合で個展の最終日まで日延べをした挙句、時間も告げずに来訪したことが申し訳なく、お詫びを申し上げるしかありませんでした。

50cm四方ほどの、背丈の低いテーブルを挟んで、差し向かいに座りました。私は個展のお祝いとお詫びも兼ねて、地元の和菓子を持参していました。その方は、今や書店では入手困難な、11年前に刊行された作品集を下さったのでした。そうした噛み合わせの心地良さに、私はこの先も長く続くお付き合いを確信したのでした。

それはそれは、刺激に満ちた愉快で濃密な時間でした。このたび刊行された写真集を間に挟み、私は気になっていたことや知りたかったことを訊ねました。そのひとつひとつに、丁寧に、そして率直に語るその口調は、本当に穏やかそのものでした。その姿は、写真に対する「畏怖」に満ちあふれていました。

ほどなくして、「いちばんお会いしたかった」と言って下さった理由が判りました。今回刊行された作品集の、最初の買い手が私だったらしいのです。私はそんなことを知る由もありません。いつもチェックしている出版社のブログで、その写真集が出ることを知り、しかもその撮り手が誰かを(一方的に)知っていたわけですから、一も二もなく発注しただけだったのでした。

しかし、その方にとっては、同じ土地に暮らす人間が買い手の第1号だったことが、さらに輪をかけて嬉しかったのだそうです。その喜びは、私にとっての喜びにもなったのでした。

結局、夕方の5時過ぎまで、途切れることなく話し続けていました。共通する第三者を発見し、実は意外な接点が有ったことも判りました。異口同音に漏れた言葉は「安心しました」という言葉…..つまり、互いに波長が合わなかったらどうしようという懸念が、まったくの杞憂であったと判ったのでした(もちろん、相当にその方が気を遣って下さった結果でもあります)。

他にも書き出せばキリがないくらい、いくつものことを教わりました。そうして改めて思いました。真摯に写真に取り組んでおられる方は、本当に純粋で、謙虚で、穏やかで、優しい方が多いのだということを…..。そうして2人して、「森山さんが繫いで下さったようなものですね。」と、その偶然の必然に酔いしれていたのでした。

2008年12月28日を、私はこの先も決して忘れることは無いと思います。一昨日まで、本業に関わることに手を抜かなかった、そのご褒美だったのだと思うことにしています(笑)。

(了)

2008Krsk004-1

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