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引き揚げ。

2008Asato018

昨夜放映されたNHKスペシャル『引き揚げはこうして実現した —旧満州・葫蘆(ころ) 島への道』。久しぶりに見応えのあるドキュメンタリーでした(詳細はこちら)。「引き揚げ」とは、敗戦によって「新天地」という名の植民地から追い返されることを意味するものとばかり思っていました(再放送の予定はこちら)

もちろん、そのように解釈することもできるでしょう。また、「引き揚げ」という事業を成功させるために、当時の日本政府をはじめ、関係各所が膨大なエネルギーを費やし、その善意と尽力の結果、実現した事業とも言えるでしょう。

しかし、昨夜のドキュメンタリーを見る限り、「引き揚げ」とは、帰国を切望する人々の思いとか、ましてや「人道主義」が実現させたものではありませんでした。当時の中国国内の内戦状況、つまり共産党(毛沢東)と国民党(蒋介石)の争いに、大国米ソの思惑が絡み合う、その駆け引きが実現させた奇跡であり、必然だったのかもしれません。

言われてみれば至極当然の、しかし言われなければ決して知ることの無い事実に触れた気がします。決して「人道上の配慮」が実現させたのではありません。むしろ、大国による、至って冷徹な外交(軍事)戦略が、105万人にも及ぶ在満邦人の、非常に短期間での帰国を可能としたのでした。

歴史に「もし」は禁物ですが、当時の中国の情勢如何によっては、「日本人の帰国を認めず、労力として使う」という選択も、可能性として充分にあり得たのかもしれません。事実、技術者をはじめ専門的な職能を持つ1万人の日本人は、「留用」と称して帰国を許されず、現地の産業振興のために留め置かれたのだそうです。

引き揚げのことについて、私はまったく知識の持ち合わせがありませんから、これ以上、触れることは差し控えます。ただ、さらに印象的だったのは、現在の現地の光景でした。もしかすると、60数年前とほとんど変わらぬ光景が、いまもそこに在るのではなかろうか……。

安部公房の没後、NHKが放映したドキュメンタリーの中で、実弟の井村春光さんが、戦前に暮らしていた旧奉天の生家を訪ねる場面がありました。その家が、当時と変わらぬままそこに在ったことに、大きな感慨を抱いている様子が描かれていました。

「安部公房」と言えば、『砂の女』『燃えつきた地図』『箱男』等が代表作に数えられます。もちろん、私も大好きな作品ですが、それ以上に私を捕らえて離さない、そんな魅力をたたえているのは、『けものたちは故郷をめざす』という作品です。荒涼とした旧満州の大地と、そのなかを這いずり回る青年の、極限まで研ぎ澄まされた独り語り……。もういちど、読み返してみたくなりました。

2008Asato017

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