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赤錆びた光景(20)。

2008Nabari003

「記録と記憶の現在形」…..。およそ日本語たりえない、意味不明の戯言です。しかし、尾仲さんの写真を形容しようとすると、他に適当な修辞が見当たらないのです。正確に写し撮られた「現在」を元に、「過去」へと誘う企てから、この色調を重ね合わせたわけでは無いと思うのです。

どのページを開いても、かつてそこに居合わせたかのような既視感を覚えます。しかし巻末の撮影地一覧と照合すると、まったく見知らぬ土地なのです。「今度こそ、憶えのある土地だろう」と思って再び巻末を開くのですが、やはり違うのです。

そのうち、気が付くのです。この既視感は「遠い過去」への既視感ではなく、「連綿と直近まで続いている過去」への既視感なのではないかと。つまり、ここに写された現実は、かつて私が暮らした土地でもあり、どこかで垣間見た光景でもあり、そして紛れもなく、今日只今、私が暮らしているこの土地そのものにほかならないのではないか、と。

「郊外」とか「農村」とか「港町」とか「旧市街」といった、分類の便宜のためのレッテルは、尾仲さんの写真にとって、ほとんど意味をなさないような気がします。ましてや、きらびやかで猥雑な「都市」は1枚もありません。しかし、そんなありふれた地方の光景こそ、これも「日本」であり、またこれこそが「日本」なのだ、と思うのです。

(もちろん、ここで言う「日本」とは、愛国的な何かを象徴して言うのではありません。「この土地」という言葉を使う代わりに、「日本」という単語を使ったに過ぎません。)

ある新聞で、こんな記事を読んだことがあります。近年の昭和史研究では、「敗戦」を間において「戦前」と「戦後」とを殊更に隔絶させるのではなく、むしろ連綿と続く動体として捉えようとする傾向が現れているそうです。

「明治」が「江戸」を抱えたまま動き始めたように、「大正」が「明治」のオプショナル・ツアーでしかなかったように、「昭和」が「大正」の憂鬱を孕んでいたように、そして復興の担い手が、多く戦前に生まれ育った世代であったように、好むと好まざるとにかかわらず、過去を丸抱えして走るのが「現在」の正体かも知れません。

尾仲さんの写真は、そんな「現在」を私に教えてくれました。バカボンのパパではありませんが、「これで、いいのだ」と諭されたような気がしています。これまでの来し方を愛し、そしていま現在暮らしているこの土地を愛し、それをまるごと、広角レンズで写し込む…..。それで、いいのだ。そうして撮り続けて行けば良いのだ、と。

マクロレンズや50mmを多用したり、細部の「切り出し写真」に興じることを、しばらく控えてみようと思うのです。写したままを並べよう、と。

ちなみに、尾仲さんの愛機は、Nikon F3+Ai 35mm f2s、なのでした(笑)。

(了)

2008Nabari000S

Comments:4

hiro 08-10-31 (Fri) 16:57

白黒写真時代の懐かしい色がセピアとすれば、我々世代の色調は赤錆びた色調
なのかなぁ。脳裏の無意識の感覚を勝手に使われてるかのようですね。
写っているのは徹底した広角パンフォーカス。ボケを使わない意図は何なの
かなぁ? などと…不覚にも考えてしまいました。懐疑的に「技巧」の存在を
探してしまったので。mbさんのこのシリーズを読んでしまったから…
…かもしれませんね。

mb 08-11-04 (Tue) 20:16

hiroさん、返信、遅くなってすみませんでした。
あるいは既にお読み頂けていたかもしれませんが、10月30日の記事(つまり、この記事の1日前の記事)を書いた直後、ふと思い立ったこと(もしくは、書き切れなかったと思ったこと)をtumbl.rの方に書いたのです。そこで書いた内容と、hiroさんが寄せて下さったコメントとの符合に驚き、喜んでいるところです(tumblr.の記事は下記の通りです↓)。

http://memoranda.tumblr.com/post/57078008/memoranda-for-memoranda-016

いずれ写真はその存在自体に「技巧」を孕んでいますから(もちろん、それは写真に限りませんが)、相即不離にあることは変わりありません。そして「技巧」に「自己顕示意欲」を感覚するか否かも受け手次第ですから、一概には言えませんが、尾仲さんのトーン、決して郷愁へと誘う企みではないように思えるのです。

hiro 08-11-05 (Wed) 20:06

もう一方の文章拝読しました。寄り道のないスッキリとした思考ルートに誘導頂いたような思いがしました。さすが!

mb 08-11-05 (Wed) 23:05

hiroさん、こんばんは。
前回、いただいたコメント、てっきり、tumblr.を読んでいただいたうえでのことかと思っていました。
「シンクロ」という言葉、実は決して好きではないのですが、ここまでくると、なにかの「同期」を感じずにはいられませんね(笑)。

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