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物語。

  • May 17th, 2008 (Sat) 22:19
  • 思惟

Yunotsu001

書店でたまたま手に取った雑誌に、知り合いのインタビュー記事が載っているのを見つけました。生い立ちから若かりし頃の思い出、過去に経験したことのある職業のこと、現在の仕事に込めている思いなど、ちょっとした一代記風の仕上がりでした。談話を記者の視点で再構成したトーンでした。

その調子はどこまでも柔らかく、好意に満ちたものでした。そして、彼の人柄がにじみでているものでした。時折「おやおや、そんなことがあったのか」と、初めて知る事実も書かれてありましたが、決して彼を貶めるようなものではなく、むしろ微笑ましいくらいのものでした。

その雑誌が発売されてから、ずいぶんと経ったある日のこと、たまたま彼の家の近くを通りがかった私は、祝意の表明も兼ねて訪ねてみることにしました。

いつものごとく、奥さんが柔らかな笑顔で迎えてくれました。無沙汰を詫び、そして例の雑誌のことに触れました。全国に発売されている雑誌の、それもかなりの頁数を割いての記事でしたから、「素晴らしいことでしたね。」と率直に伝えました。

ところが、その雑誌のことに触れた途端、いままでに見たことのないくらい、みるみるうちに奥さんの顔が曇りはじめたのでした。

奥さんは、口にこそ出さなかったものの、その表示にはありありと、「読んだんですか……」という調子が見て取れました。そんな反応など、予想もしていなかったので、私も大いに狼狽しました。そして「どこかに奥さんを不快にさせる一節でもあっただろうか」と、懸命に記憶を手繰ってみました。しかし、にわかに思い出すことができません。

言葉を失っている私を気の毒に思ったのか、奥さんは、いつもの笑顔を取り戻そうとするのですが、少し微笑んでみせては、「やっぱりダメだ」と言わんばかりに首を振り、「あの記事はいけません」とか「私は好きじゃありません」と繰り返し、そのくせ、どこがどのように気に入らないのか、決して話そうとはしないのでした。

(つづく)

Yunotsu003-1

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