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ドバイとパチンコ(1)。

Yunotsu015

今年の2月、他県に出張した折りに携えていたのは、安部公房の『砂漠の思想』でした。1994年に講談社文芸文庫から刊行されたものです。文庫で読める安部の評論集の中では、最もボリュームのある一冊です。しかし、私は1頁も読むことなく、実に14年もの間、書棚の肥やしにしていたのでした。

理由は、冒頭の『ヘテロの構造』に収録されたエッセイ、「ヘビについてI」の出だしにあります。その一節を引用してみます。

「ヘビ年に、ヘビのことを書いたりするのは、まったく陳腐な思いつきである。しかし、陳腐から目をそむけてしまうのは、もっと陳腐だ。そこで私も、多少意地になり、「ヘビ、ながすぎる」とルナールのしゃれた文句を想出したりしながら、なんとかヘビをこなしてやろうと、身構える。」

私自身、決してヘビは嫌いではありません。たしかに、家の居間でとぐろを巻いていたりすれば、人並みにギョッとするとは思いますが、ゴキブリと出会うほどの恐怖は感じないだろうと思うのです。もしかすると、何か神聖なものの使者かもしれないと、むしろ小躍りするかも知れません。

(もちろん、そのときのヘビは1匹だけ、という前提です。さすがに2匹以上がとぐろを巻いていれば、やはり小躍りするでしょうが、その意味は前とは大きく異なります)。

にもかかわらず、この一節を目の当たりにして、そこから先に一歩も進めなかった理由……。ひとつは「ルナール」がナニモノか、皆目見当がつかなかったことと、「ヘビ、ながすぎる」という文句が、どこをどのようにひねくっても、私には到底「しゃれた文句」に思えなかったからなのです。

おまけに、この「ヘビ、ながすぎる」という文句を、安部は余程気に入っていたと見えて、その後、連作と思われるエッセイの中で、必ず1回は用いているのでした。教養のない私にとって、「ヘビ、ながすぎる」と「しゃれた文句」という組合せは、どこまでも不可解で、そのことが私をこの本から遠ざけた最大の理由なのでした。

出だしから私を追い出したエッセイを、この出張中にねじ伏せてやろう……。実に14年ぶりの意趣返しを決意して、始発の電車に乗り込んだのでした。

(つづく)

Yunotsu022

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