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死に目覚めるとき(2)。

  • November 13th, 2007 (Tue) 19:39
  • 昔話

2007Mi031

その断片的な記憶は、35年を経てなおも私の頭にこびりついています。もちろんその映像が、たしかに私の眼が観た光景だったのか、それとも後付の物語が私の脳に作り上げた架空の映像だったのか、いまとなっては確かめる術もありません。

しかし、「断片」ではあるものの、そうした記憶が失われずに済んだのは、後年、折に触れ、祖母や母から当時の模様を聞いていたからでした。

その日の朝、私は祖父に連れられて散歩に出ていたのだそうです。橋を渡って川向こうの土手を歩き、別の橋から戻るつもりだったようです。ところが祖父は途中で気分が悪くなり、幾度となく私に「もう帰ろうや」と促していたのだそうです。

ところが当の私は、このまま帰るのが惜しかったらしく、道端にしゃがみ込んでは石ころや棒切れを拾い、グズグズして帰ろうとしなかったようです。ようやく家に辿り着いたとき、祖父は祖母や母に向かって、私がなかなか動かないので大いに弱ったとこぼしたそうです。

そのまま気分が悪いと言って、祖父は横になりました。テレビからは、『キューピー三分間クッキング』のオープニングテーマが流れていたと言います。そのテーマ曲が好きだったらしい私は、食い入るように画面を観ていたとか。

祖父の様子を気遣った母が、私に音量を下げるように言ったにもかかわらず、私は駄々をこねて言うことを聞かなかったようです。それでも祖父は、横たわったまま、「いいから、いいから」と言ったそうです。

横になってしばらく経つにもかかわらず、祖父はいっこうに気分が良くなりませんでした。不審に思った祖母と母が医者を呼びました。そうしてやってきたのが、若い男の医者と看護婦です。そのとき、未だ祖父の意識はハッキリしていたのでした。

祖父の死について、私の記憶が始まるのは、この医者がやってきた光景からです。処方された白い錠剤は、万一、さらに気分が悪くなったときに飲むようにと渡されたものでした。

そうして医者が帰った後、祖父の容態が急変します。私の記憶は前の医者がやってきたシーンでいったん終わり、次に憶えているのは、私の眼の前で祖父が白い錠剤を吐き出している光景でした。

この間…….つまり、医者が帰り、祖父が私の眼の前で倒れている光景まで、その間の記憶は、私の中で完全に欠落しています。あとで祖母や母が話してくれたところによると、私は祖父に薬を飲ませてあげるのだと言って聞かなかったのだそうです。

(つづく)

2007Mi020

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