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続 浪漫と現実。

Tyo2005Sep025

ここから先は、いわゆる「ネタバレ注意!!」です。流行(はやり)の「自己責任」とやらをブンブン振り回すつもりは無いのですが、もしも漱石の『硝子戸の中』を未読であり、昨日の記事に興味を持って下さった方がいらっしゃれば、今日の記事は読後にご覧頂くことをお勧めします。

『硝子戸の中』を読んだ私は、その女性がいったいどのような人物であったのかを知りたくなりました。白状すれば、野次馬根性以外のなにものでもありません。しかし漱石の筆は、そうした根性を呼び覚まさずにはおかないくらい流麗なのでした。

きっかけが何であったか、今ではすっかり忘れてしまいましたが、いずれにせよ、あまり評判のよろしくない女性であるらしいことが判りました。そのことが決定的になったのは、漱石夫人の回顧録『漱石の思い出』(文春文庫)でした。

夫人である夏目鏡子氏の回想を口述筆記した本です。1994年初刷の文庫、その337頁から341頁、「酔漢と女客」と小見出しのあるなかに、その女性のことが綴られています。

それによると、夫人は初めからその女性に対して懐疑的だったようです。不幸な身の上話を振りかざして「死ぬ死ぬ」と言い回るのは、自ら自殺を広告して歩いているようなものだし、それにしては「死んだ」という話しをいっこうに聞かない。どう考えても変ですよ、と夫人は漱石に諭していたようです。

するとあるとき、なにかの雑誌にその女の記事が載っていた。要は自分の身の上話を作品に取り上げてもらいたくて、半ば売名行為に近い形で、漱石に限らず、ほうぼうの作家のもとを訪ね回っていたらしい。まさに「幽霊の正体見たり」の世界です。

夫人は「ほれ、ご覧なさい」と(勝ち誇ったかどうかは定かではありませんが)言ったとか。女の話に人一倍同情し、「どうしたものか」と真剣に悩んでいた漱石は、それを聞いてなんとも嫌な顔をしたそうです。

その浪漫ゆえの懊悩が、夫人の「リアル」によって、児戯に等しいものだと断定されたわけです。叱られるかもしれませんが、女性のリアルは、時としてどんな刃よりも鋭く、そして残酷です(笑)。

中学時代、友達と平井和正の『幻魔大戦』にハマっていました。きっかけは忘れましたが、当時、担任であった若い女性の先生も、私達に感化されて読み始めました。そうして、競い合うように巻を重ねていました。

あるとき、職員室で盛り上がっていたところへ、別の先生がやってきて、「なんの話し?」と訊ねました。超能力や輪廻転生のことを熱っぽく語る私たちに対して、「あほらし。そんなん、死んだらしまいやん」と、いとも簡単に言ってのけたのでした。忘れもしない、中年の国語の女性の先生でした。

反発を覚えるどころではありませんでした。その言い方が妙におかしくて(たしかそのあとも「死んだらしまい、しまい!」と大声で繰り返しました)、「完敗。白旗。おっしゃるとおり!」と思えたのでした。漱石夫人の「暴露」に、さほど腹立ちを覚えずに済んだのも、この経験があったからでした。

そのおかげかもしれません。是非はともかく、自分の身体に自ら危害を及ぼすまで、深刻に悩むことはありませんでした。また、その懊悩を癒されんがために、我を忘れてなにかをアテにしようとも思いませんでした。もちろん、その実態は「カルトにさえ相手にしてもらえなかった私」なのかもしれませんが…..。

そういえば、12年前の今日、あの事件が起きました。薄紙で頬を撫でられたような微妙な近しさを覚えつつ、しかし決して同じには成り得ないことを感じていました。私と彼らを隔てた岐路は、果たしてどこにあったのでしょう…..。

今にして思えば、あのときの国語の先生に感謝するばかりなのでした。

(了)

Tyo2005Sep023

Comments:2

complex_cat 07-03-21 (Wed) 11:40

当時,独特のSFのスタイルの持ち主であった,平井和正氏の絶大なるファンでした。幻魔大戦はその付き合いでファンとして読んだという感じですが,当時の氏の作品には,あるフォーマットの宗教観が入っており,それは「ウルフガイ」シリーズにも編成を強いることになりました。
で,彼にその当時絶大な影響を与えた,新興宗教の「ミカエル」と呼ばれた女性は,その後,様々な問題をはらむお約束の新興宗教問題の一つの例に過ぎないものでした。
 遅筆作家にもの凄いエネルギーを与えたことは確かですが,宣伝等に利用された作家とあの作品群の意味はなんだったんだろうと思います。
 こういうのも一種の種明かしなのだと思います。

marmotbaby 07-03-22 (Thu) 23:38

『幻魔大戦』、お世話になったのは角川文庫でした。生頼範義さんの表紙が印象的な文庫です(それだけに、のちにアニメ映画化されたキャラクターがまったく異なる雰囲気だったことに、とても…..。ずいぶんあとになって、その作者が大友克洋だと知ったのですが。)
なるほど、そういう背景があったんですね。いまでも文庫は刊行されているのかな….。

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