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異界の住人。

  • February 9th, 2007 (Fri) 23:59
  • 家族

Tyo2006 Mar027

子どもの話す言葉には、時折、ギョッとさせられることがあります。そのなかには、微笑ましいもの、思わず吹き出してしまうもの、あるいは虚を突かれて、一瞬、子どもの顔を見つめてしまうものなど、様々なケースがあります。

ただ、一昨日のそれは、なんとも奇妙なものでした。まるで、異界の住人が息子の口を借りて、私に語りかけているかのようでした。

夜、いつものように絵本を読んでやりました。ひとしきり読み終えて、灯りを消し、添い寝しました。その日は普段よりも遅い時間になっていましたから、寝物語は無し。本人も納得して、「さ、ねるとするか。」などと言いながら、無理矢理に瞼を閉じたりしていました。

姿勢が定まるまで、彼は落ち着きなくゴロゴロします。そうして幾度かの寝返りののち、ようやくおとなしくなりました。彼は私の傍らで、こちらに背中を向けています。

こういうとき、よせば良いのに、私はちょっかいを出してしまいます。腕を伸ばして、むこうを向いている彼の顔の前で、掌をヒラヒラさせるのです。怒って手を伸ばしてくれば、まだ目を開けている証拠です。

いつもなら「やめろよぉ」と言いながら、キャッキャと大喜びするのですが、その日の彼は無反応でした。寝静まったにしては、あまり時間が経っていません。不審に思って顔を覗き込もうとしたとき、「ぼく、このなまえがきらいなんだよね…..」とつぶやいたのでした。

「ん?」と思っていると、彼はさらに続けました。「ぼく、あかちゃんのときには、なまえがなかったんだよ。」

「そうだよぉ〜、お父さんとお母さんが付けてあげたんだよぉ〜」と言うと、彼は「ぼく、ちがうなまえがよかった…..。」と言います。

てっきり、名前のことで誰かに何かを言われたのかと思いました。「どうしたの? 幼稚園でなにか言われたの?」と訊くと、「ちがうよ」と答えます。そして、「○○○は、ボクじゃないんだよ。」と。(注:○○○は子どもの名前です。)

「ぼくね、あかちゃんになるまえは、たまごだったんだ。だから、おとうさん、なにかなまえをつけて。」と、ますます得体が知れなくなります。「でもね、○○○は○○○なんだから、その名前で良いんだよ」と言っても、「ちがうの。だからなまえつけて。」と言ってききません。

「それじゃ、どんな名前が良いの?」と訊くと、「それはおとうさんがかんがえるんだよ」と言います。仕方がないので、あれやこれや、思いつく名前を挙げてみましたが、どれもこれも、彼を納得させるものではありませんでした。

諦めて「でもね、名前は変えられないんだよ。だから○○○は○○○で良いんだよ」と言うと、彼はとうとう怒り出してしまいました。「かえるの! おとうさんなんか、きらい!」「だ〜いきらい!」「あっちいけ!」と言い出す始末です。

「じゃあ、あっちへ行くよ」と言うと、今度は「ぜったいダメ!」と言います。つまり「お前が傍にいることは許しがたいが、俺を寝室に置き去りにすることはもっと許さん」と言うことです。

とうとう彼は、隣の布団にもぐり込んでしまいました。そうして、ポツリと、「ぼくはぼくじゃないんだよ」と言ったまま、私と顔を合わそうともせず、むこうを向いたまま、眠ってしまったのでした。

寝入りばなで頭が昂奮して、夢うつつを彷徨っていただけでしょう。タダの戯れ言ですから、本気にする必要など無いはずです。しかしそれでも、私たちの付けた名前に、彼が正面切って示した拒否反応は、私をいたたまれない気持ちにするのに充分でした。

なにかが、彼の中に棲みつきはじめたのでしょうか。もちろん、「異界の住人が彼の口を拝借した」と考えたのは、あまりに荒唐無稽な話です。しかし、こんな風にも思います。「七歳までは神の子」というように、いままでの彼は、目に見えない膜にくるまれていただけかもしれません。つまり、むしろいままでの彼こそが、「異界の住人」そのものだったと言うことです。

彼の示した拒否反応は、あるいは徐々に「こちらの世界」に踏み込みつつあることの証拠かもしれません。棲みつきはじめたものは、「自己への疑念」という「自我」でしょうか。

そう考えると、「成長」とは、なんともグロテスクなシロモノに思えてきます。無垢な膜を脱ぎ捨てて「人間」になるわけですから。

Tyo2006 Mar029

Comments:4

complex_cat 07-02-10 (Sat) 10:28

自分の少年期を考えても,繭に入っていたような薄ぼんやりした膜を被っていたような印象があります。
 グロテスクな印象というイメージで喋れば羽化のための準備が始まったのでしょうねぇ。親の集う通りにはならない生き物へのメタモルフォーゼが。
 我が家は,どうなんだろうと考えましたが,芋虫がはね回っているのかもしれません。

らおた 07-02-11 (Sun) 2:51

うわ〜なんか印象に残る話ですね。
なんと言って良いのか分かりませんが、、ずっと自分の頭の中にも残ると思います(笑)

H.O 07-02-11 (Sun) 13:36

今日のお話もとても興味深いお話でした。
話が少しずれてしまいますが、うちの小僧も3歳ぐらいまで母親のお腹の中でのことを覚えていたようで話をしてくれました。
最初は、嘘だろう~・・と思って彼がまだお腹の中にいた時に僕が、妻のお腹に懐中電灯をあててふざけた事や、生まれる時の心境などなど色々と話してくれましてお腹の中の彼の反応と外側の僕のや妻の行動が一致していて驚きました。
子供ってとても不思議です。そして彼らから色々な事を教わりますね(^^

marmotbaby 07-02-14 (Wed) 0:00

>みなさま
冗長な駄文にも関わらず、目を通していただいたこと、感謝に堪えません。本当にありがとうございました。返信、遅くなってすみませんでした。

>C_Cさん
おそらく、このさき幾段階かの「断層」を目の当たりにするのだろうと思います。そして、その多くは、「反抗」という形をとって現れるのかな…..と思うと、どこかしら怖い気もします(笑)。願わくば、「想定の範囲内」にとどめて欲しいものですが、どこまでも、こちらの想像を裏切って行くものかもしれませんね。ならば、いちいちたじろいだりせずに、判ったフリして付き合うことが必要かな、と思ったりします(笑)。

>らおたさん
以前、私の同僚が言っていたことがあります。生まれたての子どもが、いちばん偉そうな顔をしている。大きくなるにつれて、モノが分かるようになるにつれて、次第に自信を失くした顔になって行く。どうやら、それを「成長」と呼ぶらしい、と。ウチの息子も、その最初の時期を迎えたのかもしれません(苦笑)。

>H.Oさん
それは凄いですね! たしかに、幼い子は、ある時期まで、自分が生まれ出たときのことを記憶しているらしいと聞いたことがあります。いままで、真偽のほどは疑っていましたが、お話しを伺って、本当なんだと思えました。
それにしても、寛容な奥様ですね。私がそんなことをしようものなら、カミさんは烈火の如く怒っていたはずです。おなかに宿った最初の頃、私は勝手に「ちょび」と名付けていました。次第に動きが出てくるようになったので「うにょにょん」に改名したのですが、それだけのことでカミさんから本気で叱られました。もう少しで、打首に遭うところでした。

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