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血肉ある言葉(3)。

  • April 10th, 2006 (Mon) 18:54
  • 光画

Mi0157

昨年末、俳優の仲代達矢を特集した、NHKの『にんげん ドキュメント』を観ていました。本放送ではなく、深夜の再放送枠でした。私も惹き込まれて観た1人です。きっと、多くの人がそうだったのではないでしょうか…..。

「名優・仲代達矢」を、自ら支え続けるとは、これほどまでに過酷なものなのか…..と、カミさんと二人で絶句していました。劇団民藝のロングラン公演。映画にもなった『ドライビング・ミス・デイジー』を、女優・奈良岡朋子との二人芝居で演じる、72歳の仲代達矢。

日々衰え行く自らの肉体と記憶力に怯えながら、目前に控えた公演の稽古に臨むその姿は、およそ自信に満ち溢れた姿ではなく、叱られて、今にも泣き出しそうな少年の面持ちでした。

「「仲代達矢」なのに、なんで、ここまで……?」という問いが、そのドキュメンタリーを観終わったあとも、後味の悪さとして残りました。

舞台の脚本を、おそらくは自ら毛筆で丹念に写しとり、その紙を、自宅の壁と言わず、書棚と言わず、廊下はおろか寝室にまでびっしりと貼り付け、諳んじている様は、決して「努力」などという生易しいものではありませんでした。また「鬼気迫る」と形容できるほど、仲代自身の中に充溢した何かがあるようにも見えませんでした。

敢えて配慮を欠いた言い方を赦して頂けるなら、狂人のそれに近いものを感じていました。自ら刺青を施すが如く、「台本」という他人の言葉を、自分の血肉に刻みつけるその姿は、どんな形容も無化してしまうほどの狂気に満ちています。

それほどまでに、命がけで刻んだ言葉は、所詮、「自分の言葉」ではありません。しかし、すべての台詞が頭に入り、舞台上で演じられた言葉になると、それは紛れもなく「俳優・仲代達矢」の言葉であり、仲代演じるホーク自身の言葉になるのです。そこには、微塵も血のにおいはありません。

言葉の持つ身体性、あるいは、身体と不可分な言葉のありようを思わずにはいられませんでした。

(つづく)

Mi0155

Comments:3

散歩道 06-04-12 (Wed) 10:33

■marmotbabyさん、
仕事で劇場に行くのと、観客として客席に座るのでは当然ながら心構えが違いますが、最近観客の一人になる機会もめっきり少なくなりました。
我々がテレビやスクリーンで見る俳優の姿はほんの一部、そこに行き着くまでの努力を知る人は関係者位でしょうか。あえて知る必要もない様にも思いますが、番組としては興味を誘う材料だと思います、私も見ました。
ただ普通のサラリーマンでも同じ事をしていると思いますよ。形こそ違え、一つの仕事を完結させるために資料を調べたり、市場の調査をしたり、夜遅くまで資料を作ったりと人には見えない、それこそ血を吐くような努力を。評価をしてくれるのが観客ならぬ会社と言う事で。台詞を覚えて語るのであれば誰にでも出来ますが、自分の言葉として発し観客に伝えるのですから、自分の中に確固たる信念、信条、思想、哲学が詰まっているんでしょうね。そこが素人とは違うところではないでしょうか。「プロであるならば全てにおいてプロでありたい」を信条に生きてますが、そう成りきれないところが凡人なのでしょうか。

ECCO 06-04-12 (Wed) 22:54

仲代達矢

昨日仕事から帰ってNHKの人間ドキュメントを見ました。「仲代達矢」を追う番組だったからです。役者歴半世紀の大ベテランも72歳。全国を巡る「ドライビングミス…

marmotbaby 06-04-13 (Thu) 22:10

散歩道さん、返信、遅くなってすみませんでした。
「普通のサラリーマンも同じことをしている」という一文、頷きながら拝読しました。プロであるかアマであるかを問わず、「会得」という言葉に係る言葉と肉体の往還は、自ずと強靱な意志を伴うものでしょうし、逆に、その往還を続けることから、「強靱な意志」なるものも育まれるのかもしれません。
問題は、そのいずれをも必要としなくなってしまう社会…..それは滅び行くだけだろうと思うのですが、やはり「言葉に感応する身体と、身体に響く言葉のボルテージの低下」が、いろんなところで起きつつあるような気がします。

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