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血肉ある言葉(1)。

  • April 6th, 2006 (Thu) 21:41
  • 光画

Mi0154

父方の祖母は、今年、94歳になります。体も頭も健康そのものですが、いかんせん、ひとり暮らしをさせるには不安が多く、現在は実家近くのホームに入居しています。

私が子どもの頃、毎年の盆暮れと春休みには、必ず帰省していました。毎夜、日記をしたためたあと、仏壇に向かい、仏様を拝んでから床に就くのが、祖母の日課でした。1日だって、欠かしたことはありません。

般若心経をスラスラ唱える祖母の姿が、私には不思議でなりませんでした。「どこで憶えたのか?」と訊ねたことがあります。祖父の父、すなわち私にとって曾祖父に当たる人間が、たいそう信心深い人物であったらしく、それに躾けられたとか。学校で覚えたわけでは無いことが、私にはとても意外に思えたことを憶えています。

(余談ですが、当時の私は「信心深い」と「執念深い」の区別が付かず、あるとき、母に向かって「おばあちゃんって、ほんとに執念深いよねぇ」と言い、こっぴどく叱られたことがあります。)

「どういう意味なのか?」と訊ねたこともあります。意味が判れば、私もじっくり読む気になるだろうし、憶えることもできるだろうと思ったからです。しかし、それについて、祖母の説明はまったく要領を得ず、「唱えることに意味があるのだ」と、素っ気ない答えでした。

祖母がそうして仏壇に向かうとき、祖父はたいてい、寝転がってテレビを観ていました。『水戸黄門』か『大岡越前』、坂上二郎主演の『夜明けの刑事』と相場は決まっていました。子どもとしては、そちらの方が面白いに決まっているので、祖父に添寝していることが多かったと思います。

祖母は別段、そんな祖父を咎めたりしませんでした。かといって、祖父が不信心であったかというと、決してそうではありません。いつ頃から始めたのか判りませんが、写経に勤しむのが祖父の日課でした。

夏場、昼寝を終え、夕方に気温が下がって野良仕事を再開するまで間、納戸の平机で写経をしていた姿を憶えています。何百枚か溜まったところで、これを沖縄に送るのだと言っていました。むろん、戦没者の慰霊のためです。

一時期、仏壇の前にラジカセを置き、カセットテープに吹き込まれた読経を流すことが、さもありえないことのように、ニュースになったことがありました。しかし、いまは、そんなことすら話頭にのぼることはありません。

念仏をはじめとして、人間の血肉に根を下ろしていたはずの言葉たちが、おそらくは私の両親の世代以降、急速に失われつつあるように思えます。「念仏の他に、どんな言葉のことを言っているのか?」と問われれば、にわかに答えがたいのですが、さしあたり「「問い」として生きた言葉」とでも言えば良いでしょうか……。

(つづく)

Mi0151

Comments:2

complex_cat 06-04-14 (Fri) 10:28

仏教を特権階級のツールとするためというばかりではないでしょうけれど,お経がその時代その時代の人間が,すっと理解できる言葉になっていないのは,日本の仏教の特徴ではないでしょうか。当時の文化,科学の先端技術記述後であった漢語で読まれているというのは無理からぬこととよく理解できるのですが,スリランカなどいくつかの仏教国では,お坊さんの唱えるお経は,周りの普通の人間が皆,内容をちゃんと理解できる言葉で唱えられるということを聞いたことがあります。
 日本でももしそうだったら,お経の存在価値は,全然変わっていたかも知れないなと思います。

marmotbaby 06-04-17 (Mon) 19:52

C_Cさん、こんばんは。返信が遅くなってすみませんでした。
確かにおっしゃるとおりですね。秘儀化して神話化することによって守られるものは、案外、脆弱なシロモノかもしれません。もしかすると、わらべうたや和讃の類は、”権威ある”お経を庶民の手に降ろしたものかもしれませんね。たとえば、あの「ひとつ積んでは父のため、ふたつ積んでは母のため…..」という地蔵和讃など…..。

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