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懐かしいノイズ。

Mi0142

古びた安物のカセットテープがあります。薄い桃色の紙ラベルが、すっかり褪色しています。うっかりすると見逃しそうですが、「ゴールウェイ バッハ 管弦楽組曲第2番」と、鉛筆書きでしたためられています。なかなかの達筆です。

母の手によるものです。親元を離れて下宿していた頃、実家からコッソリ失敬したテープです。未だに私の手元にあるのは、そこに録音されているBWV1067、J.S.Bachの管弦楽組曲第2番ロ短調のせいでした。

物心ついた最初の家…..そこは、木造平屋の粗末な一軒家でした。そこに暮らしていた頃、母がラジカセで録音したものでした。音源はNHK-FM。フルートと指揮、James Galway。演奏、ザグレブ室内合奏団。おそらく、1970年代の終わり頃だと思います。私は小学校の中学年でした。

J.S.Bachを、それと知らずに聴いた、最初の曲です。当時、私はNHKの人形劇『紅孔雀』の音声を録音する必要から、このラジカセに親しんでしました。ラジカセとは言え、モノラルスピーカーが一個付いているだけの、縦置型のものです。

ロッドアンテナを引き伸ばし、クルクル回して受信するタイプです。加えて、クリアな受信など、とうてい望むべくもない山裾の家でしたから、あるいはAM以上にノイジーなFMでした。

砂をまぶしたようなノイズの海で、Galwayのフルートだけを聴き分けていました。作曲者と演奏家を一致して認識できたのは、かなり後になってからのことです。

それでも、このテープを手放せなかった理由。それは、同じ音源によるCDを、長くみつけられずにいたからでした。他の演奏家によるものも、いくつか買って見ましたが、Galwayのこの演奏ほど、響いてくるものはありませんでした。期待が大きいぶん、失望も半端ではなく、ことによると、自ら神経を逆撫でするために、別の演奏家のものに手を出しているようなものでした。

最近、遅まきながら、同じ音源によるCDが出ていることを知り、購入しました。Galwayの還暦を祝って刊行された全集の第1巻、『ジェームズ・ゴールウェイの芸術 VOL.1 バロック時代』の1曲目が、BWV1067だったのです。ライナーノーツを見ると、1976年録音とのこと。

テープで聴いていた頃は、このノイズさえなければなぁ….と、幾度となく思いました。しかし、いざ、現実にCDが手に入ってみると…….確かに、綺麗な音でした。しかし、綺麗すぎて、なんだか、とてもつるんとしていて、感動を覚える間もなく、聴き終わってしまいました。

ノイズが紡いでくれた私の想像力が、実際の音源以上に、豊かな感動を与えてくれていたようです。なにしろ、そのテープを聴きながら、同時に思い浮かべていたのは、真昼の陽光が差し込んでくる、粗末な四畳半の部屋と、そこに置かれた、あのラジカセのことなのですから。

そういうわけで、これから先も、このテープを処分する必要は無さそうです。Mi0136

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