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教えてあげない。

Tyo013

常日頃、親しくさせて頂いている万年筆店があります。両親よりも祖父母に近い年齢の老夫婦が、2人で切り盛りしておられます。文字通り「温厚」が服を着ているようなおふたりです。

旧市街の商店街、天満宮の斜向かいにある、小さな小さなお店です。この街の規模からは想像できないほど、店内には万年筆がぎっしりとディスプレイされています。コの字型に配されたショーケース、その左手奥に、ご主人の修理机が据えられています。

創業は1918年。ご主人のお父様の代からの老舗です。いつも背広にネクタイのご主人が、にこやかに迎えて下さいます。背広の胸元にはバッヂがわりの「ペン先」が光っています。

私がこちらを訪ねるようになったのは3年前。通称「モグラの革」手帳に使うため、丸善のセンチュリーを手に入れたときからです。うっかり机の縁にペン先をぶつけてしまい、修理と調整をお願いしたのがご縁でした。

幸い、たいした怪我ではなかったので事なきを得ました。驚いたのは、ご主人が特別な工具を一切使わず、すべて指先の感覚だけで治してしまうことでした。「お客の顔は忘れても、ペン先は憶えているのが自慢です」とは、ご主人の言葉です。

商業施設が郊外に移るなか、ご多分に漏れずこの商店街も閑散としています。また万年筆そのものが売れない時代も長くあったと言います。そんな時代をくぐり抜けながら、万年筆一筋でお店を守ってこられたわけです。

多くの万年筆店が、他の商品(宝飾品や時計など)に手を出して事業を広げ、その挙げ句に廃業してしまった、そんなお店をたくさん見てきた、とご主人はおっしゃいます。自分だけは万年筆にこだわって、細々とではあったけれども、このお店を続けてきた、と言います。

その思いを表すかのように、ご主人の修理と調整は、常に必要最小限に止められます。一過性の書きやすさを演出するために、ペン先を削ったりすることはありません。「書きやすさ」は職人がつくり出すのではなく、書き手が「育てるもの」だという信念です。

先日、お店を訪ねた折り、私設応援団が出来たというお話しを嬉しそうにおっしゃっていました。万年筆を愛する地元有志の方々が、ボランティアでホームページを開設し、このお店を全国に発信しているのだそうです。私も拝見しましたが、とても1日では読み切れないほど充実したHPです。

そのため、全国からの修理依頼、ヴィンテージものの注文依頼が殺到しているそうです。キーボードにさえ触れたことのないご主人は「インターネットって、凄いねぇ〜」と喜んでおられました。

ただそのいっぽうで「自分のスタイルは、お客を前に、その人の書きぐせを見ながら調整するので、嬉しいけれども困ったこともある」と苦笑しておられました。「2人で食うには困らんから….」と、場合によっては依頼を断ることもあるそうです。

私自身、コレクターではありませんから、お店に対する貢献度はゼロに等しいので、そのことにうしろめたさを感じています。ただ、お店に行けば間違いなく、ご主人とその奥様とゆったりした時間が過ごせる。その贅沢を、とても嬉しく思っています。HPにリンクを張らないのも、そうした私の「既得権」を維持したいというわがままに過ぎません(笑)。

二言目には「いつまで続けられるか判らんから…..」とおっしゃいます。それを聞くたび、なんとも言えない複雑な気持ちになります。とは言え、私設応援団の方々との関わりを通して、ますます万年筆一筋に打ち込む元気をもらっているのだとか。いつまでも、続けて頂きたいのです。

Tyo029

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