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万年筆とモグラの皮。

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万年筆が「実用品」だと知ったのは最近のことです。それまでは、進学や就職の進物か、せいぜい一部好事家の蒐集品で、とても「実用」に堪えうるものとは思っていませんでした。

2001年の夏頃だったでしょうか。あるとき、敬愛する同僚が私のところにやってきて、「ちょっとこれで書いてごらんよ」と言います。何の気無しに手にとって、ノートに書き付けてみると、なんとも柔らかく、滑るようなペン先に「うおぉ!」と声が出てしまいました。

「えーっ、万年筆って、こんなに書けるもんなんですか…?」と感嘆の声を上げると、件の同僚は満足気に微笑んで、「でしょ?」と言います。

あとで知ったところ、それは丸善がセーラーと共同開発し、2001年を記念して2001本を限定販売した「センチュリー」という万年筆でした。キャップの金冠に、全国の丸善店それぞれの刻印が施してあります。軸には「キャンバス・マイカルタ」という、布地を何枚も圧着して作られた素材を使用しています。これが通常の万年筆とは著しく異なる手触りの良さを担保していて、書き味とともに私を驚かせた理由のひとつです。

しかし、その当時、「良いなぁ」と思いつつも、購入するには至りませんでした。その後、同僚とともに仕事で上京した折、時間を作って銀座の丸善に連れられて行き、現物を手に取ったものの、正気を失うことなく戻ってきました。私には分不相応な価格だったこともありますが、なにより、万年筆を常用する状況が、当時の私には見当たらなかったからです(もっとも、それくらいのお金があれば、森山大道さんの絶版になった写真集を買い集めたかった、というのが最大の理由でしたが)。

ところが昨年、小さな転機が訪れました。商品名をここに挙げると、各所で叩かれる懸念があるので、通称「モグラの皮」と呼んでおきますが、そういう名称の手帳を知り、唐突に「日記でも付けようかなぁ」と思い立ったのです。書くなら、センチュリー以外にありません。丸善に照会し、奇跡的に売れ残っていた最後の1本を手に入れ、今日に至ります。

白状すると、小学生の頃から「日記」は大の苦手でした。それに「絵」の一文字が付け加わると、もういけません。8月末の塗炭の苦しみ、綴られた嘘八百……思い出しても身震いします。

そんな私が「日記」などを付ける気になったのは、ひとつには子どもの成長を書き付けておきたかったからです。子どもが産まれた直後から始めずに、なぜ3歳を超えたあたりからそんな気になったのか。何かが降ってきたとしか言いようがありません。

それまでにも、育ての親とも言うべき祖母が、私の幼い頃を書き付けてくれた遺品の日記を見ていましたし(熱を出しただの、おなかを下しただの、その記述の多くは私のひよわさに関わることでした)、書き残すことの良さは承知していましたが、「自分に続くはずがない」という思い込みが全てでした。

ところが「モグラの皮」を知り、センチュリーを思い出した去年の夏、そのふたつが唐突に結びつき、日記を書き始めることになりました。多いときは1ヶ月で1冊を書き終えるペースです。もっとも、ここ最近は、このblogのせいで、いささかペースが落ちていますが….。

日記を付けるのは、どこかしら、部屋を片づける感覚に似ています。早く帳面に落としておかないと、所詮は限られた脳のスペースですから、新しい物事が入る余裕など、はじめからタカが知れています。

読み返すことは滅多なく、むしろ忘れるために書いているようなものですが、そうして残って行く身の回りの雑事が愛おしく思えます。

たとえば….?

「「おみそしる」を「おしそみる」と言う。なかなか治らない。」

「添い寝していると、「いっしょに夢の中へ行こっか!!」と言われ、ギョッとする」

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Comments:3

complex_cat 05-04-11 (Mon) 23:45

今回の感想,今余りよい状態でないこともあって(しかし眠れずにパソコンをワイフに隠れてやっている),何も書けませんが,非常に素敵なアーティクルですね。元気になったらもう一度読み返します。
本日は,かなりきつかったので,アーティクル作りに家族を動員してしまいました。フィルムスキャンやファイルのリサイズを小学校二年生の息子がやっております。寝て無くてはいけないのですが,酷い父親です。

Shig 05-04-12 (Tue) 10:14

こんにちは
いい話ですね。どうしても私は道具というと自分に帰ってくるものばかりを基準にしてしまいますが、今回の万年筆はいずれお子様が大きくなってその日記を渡される時に一緒にお渡しできるほどのものではないでしょうか。日々の小さな「思い出」は言葉で語られるものではなく日記に万年筆で綴られて伝えられるべきもののような気がします。是非続けてくださいね。

marmotbaby 05-04-12 (Tue) 23:47

C_Cさん、体調はいかがでしょうか。くれぐれもお大事になさって下さい。寒暖の差が激しい日が続いていますから….。
それにしても、小学校2年生にして、フィルムスキャンの操作とは….。確かに、酷いです(笑)。
ウチの息子など、以前、親の知らぬ間にパソコンの電源の入切を繰り返したあげく、見事に壊したことがあります。「サイバーテロ」と呼んでいます。本気で破防法を適用したくなりました。

Shigさん、こんばんは、いつもコメント、ありがとうございます。
当分、子どもに譲ることは無いと思います。勿体なくて(笑)。間違いなく、私も自分中心です。使える「遺品」として譲れたら本望でしょうか。
出来事の羅列にしか過ぎないことでも、直筆で綴られた肉親の文字には、なにかしら特別なものを感じます。そういう意味では、「読ませる」ことを前提に書いた文章くらい、逆につまらないものはないのかもしれませんね。「日記って、出来事の羅列で良いのだ」と思えた瞬間、気が楽になって、今日まで続いている、というわけです。

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